小さい頃から星が好きだった.単純に満天の星空はきれいだ.大きくなるにつれ,いやなことはいろいろあったが,なんていうか空を見るのはずっと好きだったなあ.

会社を辞めて,大学に転職して,海外にわたって一人で生活をして,しかも仕事をするというのは自分にとっては大変なことだった.ロシア語やフランス語で議論が進むようなところもあって,言葉もあまりわからないし,まあでも、だんだん友達もできて,価値観の違いを理解できて,仕事もうまく進み始めて,人生を立て直せたような気がしていた.

あれからずいぶん時間がたって,今も,相変わらずコンピューターと頭の中で世界をつくっている.コンピューターやあるいは紙の上に,世界の法則を投げこんで,どうやって人が動き,考え,進化を遂げていくのかを,観測と比較しながら明らかにする,というのがオレの仕事だ.

オレのやっていることは実生活にはたぶんあまり役に立たない.基礎学問としては貢献できると思うけれど,工学的にどうなの?とか,お金儲けにつながるの?といわれると直接的には難しいのかもしれない.日本では,実際にモノをつくる,生活をラクにするというのが研究の役割だと思われているところがあって,最近では真っ先に仕分けされそうだ(笑).

おまけに,地上には面倒なことがたくさんある.デタラメなことをやった挙句に,こちらにすべて押し付けて後は自分の都合のいいことだけ好き勝手なことをいい散らかす人はとても多いから.こちらの目もみないで自分の都合ばかり,それではどんどん搾取されるようでもあってこちらの心がどんどんすりへっていくようでもある.

そういうとき,夜空を見上げたり,トライアスロンでときどき南の島で熱帯魚と一緒にハアハアと息も絶え絶えになりながら泳いでみたり,高校のころがんばっていた陸上競技のことや,一生懸命一緒にがんばった友人のことや,そういうことを心に置いてみる.そうしてバランスをとったりすることもある.アホだな.

オレたちがどこから生まれてきてどこに行くのか、オレたちの世界はどこまで広がっているのか、それを知りたいと思う.それを探究することこそが,人がこの世に生まれてきた意味ではないかと思っている.人の世界は,知りえた分だけ,知ろうとする分だけ広がっていく.世界中にある憎しみや搾取,壮絶なまでに美しい風景をみるたび,絶望するけれど.それでもこの世界についてもっと知りたいと思う.