車をどんどん走らせて小さい丘をこえ,田圃は水をたたえ,細い曲がりくねった道をいき,雲が流れ,雨がさーっと降りだした.峠を越えるころにあがり,車を止めると大きな虹がかかっていた.そうしてだんだん日が落ちていった.

生活が苦しければ人は村を捨てる.いらいらしてれば殴ったり蹴りつける.それにも飽きて,貧しければ子も捨てる.それは人の弱さだろう.内側にある不当な欠落は,地球の果ての砂漠にもにて,どれほどの水を注いでも,地中に吸い込まれ,あとには湿り気ひとつ残らない.生命ひとつ根付かないまま,荒れ果てたものだけが心に残る.とか.

わけがあって見捨てられ,肉親の情とは無縁な道を歩むことを余儀なくされ,生き延びるために,そういう心のあり方に自分を適応させて生きることは,簡単じゃない.時々自分が何かの残りかすのように,空っぽな何か汚らしいもののように思える.とか.

最初に小さなサインがあった.しかし,結局何もできぬまま3年過ぎた.

畦道の上を蛍が小さな光を点滅させながら,すべるようにそらを舞った.手と手をあわせてゆっくりと川べりを歩き,最後に疲れたというのでおぶってやった.三日月が山の稜線を煌々とかがやいていた.