熱が体の中にまだ残っていてだるい.

4週ほど前,大婆様が亡くなり,密葬が執り行われた.親族だけでということあったが,分与の歪さのせいか密葬には妙な緊張感があった.大婆様は所謂火宅の人であった.惨めさと程遠い凛とした人であったが,だらしない旦那は大婆様の家に寄り付きもせず,とっと先に死んでしまい,依存心や責任感ばかりが矢鱈と大きくなって連鎖して,お金はあってもあまりいい人生ではなかっただろうと,,かってに陰口を立てられさぞかし苦笑していただろうか.

川の向こう側に,どうあがいても理解することも想像することさえできないことがある.別に明るい場所にいた人にはわかりっこないとかそういうことがいいたいわけではない.人間誰だって人というのは自分以外の人間を本当に理解できたかといえば疑わしく,人間の本質なんてものには決して近づけないものであって,馬鹿じゃないなら,どうやっても届きもしないという絶望感くらいはあるだろう.

そういう絶望感をしみこませたまま,その人に近づき,自分とその人との間に穿たれた底知れぬ溝を埋めようと努力すりゃいいなどと.やすやすということはできっこない.なぜなら,この世界にはやっぱりどうやっても埋められないことがあるからだ.悪意に満ちた空気と与えられた絶望的な距離.しかし,それでもそいうものを全部認めて,そういうことを埋めようと無駄な努力をただ続ける人間がおり,そして軽々しくわかったような顔をして早々に踏みにじり忘れてしまう人間がいる.そんだけの話だ.

暇をみつけて病院にぷらっと会いに行き,そのたび本家の血筋で男はあんただけなのだからと言われたが,今時血筋なんて関係ないだろうというと,あなたはまだわかってないと渋い顔をしていた.それでもメロンを持っていくと,美味しいわねと,優しい顔をして笑ってくれた.化粧もまだしているようで,品のある美しい人だった.しかし長生きはするものである.とは決して言わなかった.

人間を人間として今この場所につなぎとめているものは,細い細い糸のようなものに過ぎないのだろう.それはきっと儚いものだ.紫煙は細く天に向かってたちのぼり往く.
冥福を祈る.