命を粗末にするという表現がある.しかし大切にするほどの価値がもはやその場所では認められないとか,あるいは引き止めておくほどのものが何処にも何もないということは,あるのではないか.無論,当たり前の反論もあるのだろう.しかしそれはある種類の衝動への恐怖が,そういった反論を生み出している場合が多い.どうやったところでぬくぬくと安全な場所に居る人間が安易にすべてわかったようなことを言って肯定することなんてできるわけない.

泥の底にいると何かを信じるのは,どうしようもなく果てしなく困難な行為となる.だからといって明るい場所に居る人間を僻むなんていう貧乏くさいことなら辞めた方がよいと思うけれど.しかし,どうしようもなく,いや寧ろ全く逆に,安全な場所にいる人間に限って,さしたる努力をすることなく,他人を貶し落とすことで自分を軽々しく引っ張りあげるような,どこか他人を貶すことで安易に立ち居地を確認するといった「さもしさ」が見えることがある.そういう行為は恐ろしく無神経に人間ていうのをばっさりと傷つける.細々と泥の底でぽつり,よくわからないまま,ぽつりと雨が降り出す.