泣きそうになった.アホだな.

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爺様から昔聞いた話.

「地獄には,ばかでかい皿と長い箸がある.そこにいる連中は,いつも鬼のように飢えていて,世界中を呪いちらしていて,自分のことばかりだ.そこには箸があるが,長すぎて自分の口にいれることはできない.

極楽にも,ばかでかい皿と長い箸がある.そこにいる連中は,「まず,あなたからどうぞ」といって,みんなが向かい合った者の口の中に食い物をいれてやる.だからいつも満ち足りていて,仲良く暮らしている.

地獄と天国には同じものがある.しかし世界は不条理なまでに完全に異なっている.多くの人はそういう話を聞き,地獄にいる人は馬鹿だなと笑う.天国にいるものかすれば,地獄に落ちた人間など自業自得であろうし,あるいは地獄に居るものからしても,単に運が悪かったという理由にしろ,もはやそんな自分に生きている価値などなかったと,思うしかない.

確かに,落ちた者が抱える,悲しみ,苦しみ,憎しみ,恨み,呪いは,自分自身ではどうすることもできない.地獄にいるモノはずっと地獄にいるまま抜け出せず,あがき続ける宿命なのかもしれぬ.

しかし果たして本当にそうだろうか.

運命は逆転できないだろうか.運命の大きいものにしかできぬことがあるのではないだろうか.」

爺様はそういった.

運命に匙加減があるとして,自分ではどうにもできぬその匙加減で理不尽に人は地獄に落ちる.なぜ人は,どうやれば地獄から這い上がれるのだろうか.運命を逆転する方法を,ずっと,そういうことを小さい頃ずっと考えていた.

今でも答えはよくわからない.そのうちわかるんだろうか.

そんなことを思った.